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〈京都府 京都市〉老舗とニューウェーブを巡って。/ISSUE014

「そうだ」この一言で大体の日本人はこの街のことを思い浮かべる呪いにかけられている気がする。

かくいうその一人である僕もこの一言で胸の高鳴りを覚えるし、同時にJR東海のブランディングの恐ろしい程の有能さを思い知らされる。
JR東海のブランディングの有能さはこれに留まらないのだが、今回は京都についての話なのでそれはまたの機会にしようと思う。

およそ3年ぶりに訪れた日本を代表とする街、いや、“This is 日本”といえる京都の街。
以前とはまた変わって今回も知らなかった店や景色を見ることができた。

スマート珈琲店。寺町通の老舗喫茶店。

▲ 寺町専門店会商店街にある「スマート珈琲店」は京都の街に愛される老舗喫茶店。

京都へ到着してからまず始めに向かったのは、これまでに何度も訪れてる「スマート珈琲店」。個人的に世界で一番好きな喫茶店である。

ちょうど昼時だったが小腹が空いた程度だったので軽めの食事にすることにしたのだった。

ここの名物はなんと言っても「フレンチトースト」で、
少なくとも僕の二十数年の人生の中でこれを超えるフレンチトーストに出会ったことはない。
恐らく今後も超えることはないであろう。いや、なくて良い。
そう思えるほどにベストなフレンチトーストなのだ。

▲ 手前に二段に重なったホットケーキ。奥には外カリ中フワのフレンチトースト。
カップに描かれているスマート珈琲のロゴも可愛らしい。

にも関わらず今回は「ホットケーキ」を頼むことにした。

どういうことだと言われるかもしれないがスマート珈琲店ではホットケーキも負けず劣らずの名物で、
その日の天気に合わせて材料の配合を変えるこだわりの逸品。

この日の天気は晴れ。湿度は低め。ホットケーキは生地がしっかりとしていながらもパサつきは感じない。
スタンダードながらも丁寧に作られている感じが伝わる味わいで、甘さ控えめのメープルシロップをたっぷりとかけていただいた。

百年生き抜く老舗の名店たち

京都で長年愛される理由がわかる居心地の良い空間を後に、寺町通を真っ直ぐ進む。

静かな通りには家具屋、ハンコ屋と多くの店が軒を連ねるがさらに進むと全国的にも有名な名店が姿を現す。

▲ 上は1902年(明治7年)創業の京都最古の洋菓子屋「村上開新堂」。
下は1717年(享保2年)創業の日本茶専門店「一保堂茶舗」。

東京では紹介でしか購入出来ないことでも有名な「村上開新堂」だが、
京都ではクッキー缶は予約半年待ちではあるものの店頭でもいくつかのクッキーは1枚から購入することも可能。
人気の「ロシアンケーキ」などを買い求めて今でも多くの人が訪れる名店だ。
生憎この日は休業日だったが、歴史ある店舗のレトロな外観を目にすることができた。

村上開新堂から数メートル隣には「一保堂茶舗」の本店がある。
黒塗りの外装がシックで品の良さを感じさせ、店内も静かで茶に向き合う真摯な姿勢を感じさせる名店だ。

東京丸の内店とここ京都本店のみ喫茶室を構えていて、こだわりのお茶を楽しむこともできる。
ティーバッグで玉露や煎茶を楽しむことができる商品も販売しているため、京都土産にもおすすめだ。

出町ふたば。鴨川デルタのすぐ側に日本一の豆大福。

▲ いつ訪れても行列必須。でも実は電話予約もできるので時間がない人は電話予約がおすすめ。

寺町通の老舗の名店たちを抜け、鴨川デルタの側まで来ると行列必須の“日本一の豆大福”が待ち受けている。

1899年(明治32年)創業の出町柳の名店「出町ふたば」は全国的にも名を轟かせた和菓子屋。

「豆餅」の名を冠する豆大福は一般的な豆大福とは一線を画す。
優しい甘さのあんこと塩気の効いた豆のバランスが絶妙で、
餅の柔らかさはまるで赤ちゃんのほっぺたの様にふんわりとした柔らかさ。
お茶無しでもぺろりと食べれてしまうほどだ。

▲ 近くにある鴨川デルタに移動して川を眺めながら食べるのもおすすめ。

大行列ながらも老舗の巧みな客捌きにより待ち時間は20分ほど。
豆餅を3個ほど購入したが、買ってすぐその場で食べ切ってしまった。

「栗餅」も美味しいらしくこの日は売り切れだったので次回訪問時にはリベンジしてみたい。

エースホテル京都。新たな京都カルチャーの波。

▲ ホテルの中庭には特徴的なオブジェ。宿泊客には多くの外国人の姿が。

今回の京都訪問ではかねてより気になっていた京都の“ニューウェーブ”を体感することにした。

アジア初進出で2020年に京都に誕生した「エースホテル京都」はシアトル発のライフスタイルホテル。
ホテルの敷地内には映画館を含む多彩なショップが入り、京都カルチャーの中心地的な役割を担う新たなランドマークとしても期待されている。

チェックインのためのホテル内に足を踏み入れると多くの外国人観光客の姿があり、
京都という街の世界的な人気と、エースホテル京都のコンセプトでもある“東洋と西洋の美学”を目の当たりにした気分だった。

▲ 客室にはレコードプレーヤーが備え付けられていて、様々なレコードを楽しむことも。

エースホテル京都の大きな特徴は客室にレコードプレーヤーが設けられている事だ。
部屋にはあらかじめホテルスタッフがセレクトしたレコードがあるが、
エントランス奥にあるレコード棚から自由にレコードをレンタルすることもできる。

なかなか触る機会の少ないレコードプレイヤーだが、サブスクリプションが主流の現代で敢えてレコードで音楽を楽しませるというこだわりが
エースホテルの感度の高さを感じさせ、京都滞在をレコードの暖かな音色で彩ってくれる。

四川料理 駱駝。大ブームの町中華は京都でも。

京都といえば湯豆腐やおばんざいなどから和食のイメージが強いかと思うが意外にも町中華が栄えている街でもある。

京都で働く職人たちが仕事の合間に立ち寄って、短時間に安価でエネルギーの補給ができる食事処が求められたことが
昭和の時代に京都での町中華が発展した理由らしい。
今では多くの書籍やメディアでも“京都の中華”は取り上げられており、歴史的な文化財とは異なる近年の京都の暮らしの文化と言えるだろう。

▲ 店名通りのラクダが描かれた看板と鮮やかな緑色の外観が目印の「四川料理 駱駝」。

京都芸術大学のある北白川にひっそりと佇む「四川料理 駱駝」は鮮やかな緑色の外観が目を惹く1995年創業の町中華の名店。
平野紗季子さんのPodcast「味な副音声」で紹介されているのを聴いて以来、次の京都訪問の際には必ず立ち寄ろうと決めていた。

人気店らしく休日は行列必須でこの日も店内は満席。電話で予約して20時ごろに入店した。
夜だったからか、いわゆる町中華の忙しい雰囲気とは異なり店内は意外にも落ち着いた雰囲気。
店名のラクダをモチーフにした内装や箸置きなど外観同様に愛らしい空間にホッとする。

▲ しっかり辛い麻婆豆腐と甘辛い味付けがご飯を進ませる雲白肉(ウンパイロウ)。

どの料理も魅力的すぎて迷いに迷ったが麻婆豆腐・雲白肉・茄子の辛味炒めをオーダー。
店員さんより「ご飯のサイズは自由でおかわりも無料です」とのことだったが、
最近めっきりおかわりなどしなくなったのであまり気にしていなかった。

しかし、料理が運ばれて来ると刺激的でパンチの効いた味付けにご飯が進むこと進むこと。

麻婆豆腐はしっかりと辛さがありながらも口一杯に旨味の群れが駆け抜けて行き、
ちゃんと辛いので甘めの味付けの雲白肉と交互に食べることで口の中のバランスを取ってくれた。

ご飯は大盛りで頼んでいたにも関わらず結局おかわりまでして満腹で店を後にした。

Slō(スロウ)。鴨川を眺めながらテイクアウトモーニング。

▲ 朝から大行列の「Slō(スロウ)」。ハード系など豊富な種類を取り揃えている。

翌朝は鴨川沿いでモーニングとすることにした。
京都市といえばパンの消費量が日本一ということでも有名でその影響からかパン屋も多い。

河原町にある「Slō(スロウ)」は2022年にオープンしたベーカリー。
オープン半年で行列の人気店になったということで気になっていたため、
喫茶店でモーニングという王道パターンを捨てて鴨川を眺めながらテイクアウトモーニングにすることにした。

並んで待つ間も小さな店内からは「おはようございます」「お待ちいただきありがとうございます」と
明るく元気の良い店員さんの声が聞こえてくる。街の人に愛される理由もこの真摯な姿勢にあるのかもしれない。

▲ 焼きたてで提供された人気の「クロックムッシュ」は
食パンがまるまる2枚使われているので1つで食べ応え十分。

帰りの新幹線でも食べれば良いと甘い系からしょっぱい系まで袋いっぱいにたくさん買い込んで到着した朝の鴨川沿いでは、
ランニングや犬の散歩をする街の人たちにより穏やかな時間が流れていた。

石のベンチに腰掛け、近くのカフェで買ったコーヒーと共にいくつかのパンを食べた。
鴨川の穏やかな流れと広い京都の空を眺めながらのモーニングは冬の澄んだ空気と相まって休日らしい朝を提供してくれた。

肝心のパンはと言うと焼きたてのクロックムッシュはもちろんだが、ハード系のパンもカリッとモチっとしていて好みの食感。
特に小ぶりなフランスパンで作られた「あんバターサンド」はバターが大きくリッチな味わいでおすすめだ。

ぎおん石 喫茶室。宝石店の2階にミッドセンチュリーな空間。

▲ ミッドセンチュリーな内装が特徴の「ぎおん石 喫茶室」。
レモンゼリーのレトロな見た目もグッとくる。

旅の2日目というのは疲れのピークがやって来るもので、結構早い段階で体力の限界を迎える。
そんな時には爽やかなものを口に入れてリフレッシュしたくなるものだが、
「ぎおん石 喫茶室」のレモンゼリーはそれにうってつけかもしれない。

1980年創業の祇園の宝石店「ぎおん石」の2階にはセピア色のミッドセンチュリーな空間の喫茶室があり、
一度1階の店内を経由して奥のエレベーターから2階に上がるため休日でも意外と空いているのもポイントが高い。

そしてここのレモンゼリーはとにかく酸っぱい。強めに酸っぱいのだ。
それを上に乗った生クリームが中和してくれてちょうど良く食べられるのだがこの酸味が疲れを癒すのにはもってこい。

ちなみに横の席の人が注文していた「コーヒーゼリー」もかなり濃ゆいようで、
一口食べた途端に「濃ぃ!」と唸っていたので濃いめのコーヒーで目を覚ましたい人にもおすすめかもしれない。

新旧 二つの景色の共存こそが

▲ 「産寧坂(三年坂)」からは古き良き京都の景色を眺めることができる。

最後に古くからの京都らしい景色というのも眺めたくて「産寧坂」にも足を運んだ。
相変わらず多くの人で賑わっていたが、街全体で景観を守る活動を続けてくれているからこそ
こういった景色を楽しみ続けられるのだと改めて感じる。

「京都タワー」のある駅前や中心地ですら高い建物の少ない京都の街は、やはり歩いていて気持ちが良いし、
この先の未来でもこの景色を残していってほしいと強く思う。

▲ 「京都タワー」は発展を続ける現代の京都の象徴のようにも見える。

今回の訪問で新旧の各所を巡ってみてもやはり京都ほどコンテンツに溢れている街はないのではないだろうかと思えた。

老舗や伝統といった昔から変わらない京都。
新しい文化や流行を敏感にキャッチする京都。
それはやはり相入れないこの両者をチグハグにならずに京都の景色として共存させる力があるからだと思う。

進化し続ける京都の街は訪れる度に姿を変える。
また次に訪れた時に京都の街が見せてくれる新しい景色が今から楽しみで仕方がない。

text: Masato Okada

イノダコーヒで味わう“京都の喫茶文化”

イノダコーヒアイキャッチ

〈イノダコーヒ〉本の中の喫茶店に憧れて。- 僕と京都のハムサンド

学生の頃憧れの場所があった。きっかけは書店で手にした一冊の本。

京都の喫茶店といえば?と質問すれば誰もが口を揃えて答える老舗の名店「イノダコーヒ」は、
京都人にとってはなくてはならない存在らしく、観光シーズンには行列ができることも珍しくない。

そんな「イノダコーヒ 本店」で出会ったハムサンドは僕の忘れられない思い出の味になった。

日本各地のお菓子たちを集めた展覧会ではお菓子の歴史や地域のエピソードを知ることが

〈愛すべき日本のお菓子展〉- 辿り着くのは至ってシンプルなもの。

東京銀座の「無印良品」で料理家の長尾智子さんが企画協力する『愛すべき日本のお菓子展』が開催中と聞き、訪れることした。
日本の食文化のである「お菓子」をテーマに、使われる素材やお菓子にまつわる歴史や地域についての魅力を発信する企画展だ。

食べたことのあるものや、存在は知っているもの、存在すら知らなかったお菓子まで様々な資料が展示されているが、
資料に書かれたお菓子一つ一つの歴史やコンセプトを読んでいると意外なエピソードを知ることができて興味深い。

紹介されているお菓子はどれも限られた素材で作られるシンプルなものばかりだったが、
様々な種類の複雑なお菓子が溢れかえる現代だからこそ逆に色々なものを削ぎ落としたシンプルなお菓子が人々の心を掴むのかもしれない。