フード

〈愛すべき日本のお菓子展〉- 辿り着くのは至ってシンプルなもの。

僕の生活にお菓子は欠かせない。

特に食後にお菓子の用意がないと冷蔵庫や戸棚の中を物色する時間が始まるほどお菓子を求めている。察するに仕事や生活の中で疲労した脳へのご褒美を与えようと身体が訴えかけてくるのだ。
自分を可愛がりすぎだと言われるだろうか?それとも単なる砂糖への依存と言われるだろうか?

しかし他所でなんと言われようともお菓子は誰しもの日常を支えてくれるものだと思っている。
一日働いて寝るまでの大半の時間が“めんどくさいこと”で溢れかえる昨今。
お菓子が与えてくるささやかな癒しの時間こそ限られた生きる喜びなのではないだろうか。

日本各地の日常のお菓子たち

東京銀座の「無印良品」で料理家の長尾智子さんが企画協力する『愛すべき日本のお菓子展』が開催中と聞き、訪れることにした。日本の食文化である「お菓子」をテーマに、使われる素材やお菓子にまつわる歴史や地域についての魅力を発信する企画展だ。

▲ 6階の展示スペースで開催されており、会場は多くの人で賑わっていた。

この企画展では壁にかけられた様々なお菓子たちの資料を実際に手に取り持ち帰ることができる。
気に入ったお菓子があれば持ち帰るというコンセプトらしい。
一度5階へ降りてリング式のファイルを購入し、何枚か持ち帰ることにした。

食べたことのあるものや、存在は知っているもの、存在すら知らなかったお菓子まで様々な資料が展示されているが、資料に書かれたお菓子一つ一つの歴史やコンセプトを読んでいると意外なエピソードを知ることができて興味深い。

「これは食べたことがある」「こんなの知らなかった」「これ食べてみたい」「私はこれが好き」「僕はこれが好き」

訪れた人の話に耳を傾けながら資料を読むとまた違った面白さも感じられる。

▲ シンプルな展示がお菓子たちや素材の紹介を引き立たせる。

お土産にお菓子を持ち帰ることも

資料を持ち帰るだけでなく本物のお菓子を持ち帰ることもできる。
訪れた日は実際に店舗が出店していて、いくつか紹介されているお菓子を購入することができた。
展示を観て甘味を欲している訪問客は皆流れるように出店スペースへと移動していく。
当然その流れの中に僕もいた。

東京都 羽二重団子

東京のお団子といえばでもその名が上がるであろう東京都日暮里の「羽二重団子」はかつての文豪たちも愛した味。羽二重のような肌理の細かさから付けられたその名の通り、もちもちで口当たり滑らかなのが特徴だ。
今回の展示会のポスターでも左上に掲載されている「醤油団子」の焼いた梅干しようなルックスに妙に惹かれていたため迷わず購入した。

下町情緒が残る日暮里は様々な商店が立ち並び、東京で暮らしていても訪れると楽しい場所だが、わざわざ行くには億劫だったので大変ありがたい。

しかしながら所謂東京下町観光を求めるならば日暮里や谷根千エリア(谷中・根津・千駄木の頭文字から取った名称)は活気ある商店街や古民家を改装した商店やギャラリーが多いのに、窮屈さを感じない気持ちの良い場所なので買い求めに訪問するのもおすすめだ。僕もまた訪れた際には羽二重団子の店舗にも訪れてみようと思う。

東京都 木挽町よしや

東京には美味しい“どら焼き”が多くある。

浅草の「亀十」や上野の「うさぎや」、東十条の「草月」は東京の三大どら焼きなんて呼ばれていていずれも大正創業の老舗だ。今回の展覧会に出店していた「木挽町よしや」も大正11年創業と100年以上の歴史ある老舗和菓子屋。生地2枚であんこを挟むタイプではなく、1枚を折り畳んで包むタイプのどら焼きは歌舞伎座の役者たちが化粧をした後でも食べやすいように一口サイズにしたのが始まりらしい。

あんこは瑞々しく、皮もしっとりとしていてお茶がなくても食べやすいのも歌舞伎役者への配慮なのだろうか。僕としては瑞々しいあんこは好みなので嬉しかった。

銀座は訪れると新しいものと古いものが混在していて楽しい街だが、まだまだ訪れたことのない老舗も多い。「木挽町よしや」もそうだが、いつか歌舞伎役者ゆかりの店巡りなんて散歩の仕方も楽しいかもしれない。

島根県 彩雲堂

最近人気の琥珀糖だが、島根にも歴史ある老舗が提供する琥珀糖がある。

茶の湯文化が根付く松江の老舗「彩雲堂」のひとくち琥珀ほうじ茶は、ほうじ茶の香りを閉じ込めた琥珀糖だ。表面の衣をカリッと齧ると口に優しい甘味とほうじ茶の豊かな香りが広がる。
手作業で作られる不揃いな琥珀糖は茶の濃さに応じて色が変わっていて目で見ても楽しむことができる逸品だ。

彩雲堂では島根土産で一番人気とも言われている「若草」も販売していて、今回の企画展で紹介はされていなかったもののひとくち琥珀ほうじ茶と共に販売されていたためそれを買ってみるのも良いかもしれない。

北海道 千秋庵

北海道といえば乳製品だろう。

「千秋庵」の山親爺は北海道らしくバターとミルクを使用した洋風煎餅だ。
スキー板を履いた熊が鮭を背負う姿のレリーフが特徴で、1930年の誕生以来、札幌で愛されている。

今回出展はなかったものの幸い銀座には多くのアンテナショップが立ち並ぶ。最近熊ブームが来ている僕としては是非という事で、有楽町交通会館にある「どさんこプラザ」で購入した。

これまで何度も帰省している北海道だが、山親爺は食べたことがなかった。洋風煎餅と言うだけあってクッキーとは異なり口当たりも軽く、サクサクと食べ進めることができる。
軽いお茶菓子に良いし、熊好きの人には是非おすすめしたい。

結局一番シンプルが好き

今回の企画展で紹介されているお菓子はどれも限られた素材で作られるシンプルなものばかりだったが、様々な種類の複雑なお菓子が溢れかえる現代だからこそ逆に色々なものを削ぎ落としたシンプルなお菓子が人々の心を掴むのかもしれない。

確かにファッションでもなんでも結局辿り着く先はシンプルだったりするし、少なくともここ最近の僕の食の好みはあっさりとしたシンプルなものに寄って行っている気がする。もしかすると年のせいかもしれないが、今回購入したお菓子たちはどれも罪悪感の感じない味で何より食べやすかった。

様々な素材を使ったお菓子を楽しめるのは、それだけ贅沢になったと捉えることもできるが、このお菓子たちが今日まで作り続けられていることが多くの人にシンプルが好まれることの何よりの証拠だろう。

愛すべき日本のお菓子たちよこれからも僕の日常を支えてくれ。

text: Masato Okada

一冊の本をきっかけに出会った京都の喫茶店。思い出のハムサンド。

〈イノダコーヒ〉本の中の喫茶店に憧れて。- 僕と京都のハムサンド

学生の頃憧れの場所があった。きっかけは書店で手にした一冊の本。

京都の喫茶店といえば?と質問すれば誰もが口を揃えて答える老舗の名店「イノダコーヒ」は、
京都人にとってはなくてはならない存在らしく、観光シーズンには行列ができることも珍しくない。

そんな「イノダコーヒ 本店」で出会ったハムサンドは僕の忘れられない思い出の味になった。

日本有数の米どころ新潟。新潟の人々の思いは、現代の米菓産業の発展へ

MIDNIGHT ISSUECAN #05 「新潟の米菓」と、きらりと光る「浮き星」。

地域のご当地お菓子で検索をしてみたり、現地のスーパーに立ち寄ってみたりすると思いもよらぬ発見や、お菓子との出会いが楽しめます。

今回は新潟の米菓と、つい見た目買いしてしまうほどにかわいい伝統菓子「浮き星」についての話。

食後のお茶菓子にもぴったりなご当地お菓子をきっかけに、旅先の食文化や、それらを未来へ繋いでいこうとする人々の想いに触れてみてはいかがでしょうか。

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