再開発の真っ只中にある新潟駅のコンコースを抜け、古町に近い万代口へと降りてゆく。
万代口からは郊外へ向かう路線バスが慌ただしく発着していた。
信濃川に架かる萬代橋を渡った先の古町までは、2kmもないので歩いて行こうと思っていたが、荷物の多さと、新潟の夜の肌寒さに負け、バスに乗ることにした。
乗り込んだヨーロピアンな赤い連接バスは数分で古町停留所へ着いた。
SunBakeと新潟・古町の素敵な朝時間
翌朝、目が覚めると、どんよりとした曇が空一面に広がり時折雨も降っていた。
新潟の小麦「ゆきちから」を使ったパンが評判の「SunBake」でパンを買い、信濃川の河川敷で食べようと思っていたが難しそうだ。
それでもパンは食べてみたかったのでSunBakeへ向かった。
▲県産小麦を使ったSunBakeのあんバターサンドは絶品だ。
あんバターサンドを頼み、お会計をしているとお店の方に「今日はどちらからですか?朝活ですか?」と聞かれ、「東京からです。古町を旅してみたくて。」と答えた。
「それならこの通りを真っ直ぐ進んだ先にある白山神社へ行ってみるといいです。素敵な場所ですよ。」と勧めてもらった。
お店を出て、早速購入したあんバターサンドを食べてみる。
あんとバターが美味しいのはもちろん、外側の適度なカリッと感と、中のふんわり感が絶妙で、一つしか買わなかったことを後悔するほど絶品だった。
白山神社へはこの道を真っ直ぐとのことだったが、雨が降っていて、アーケードがある道を歩きたかったのと、朝の商店街の雰囲気を味わいたくて、古町通りを抜けて行くことにした。
朝の早い時間だったため商店街にはまだ静けさが漂っていたが、既に営業を始めている喫茶店もいくつかあり、ちらほらと建物から明かりが漏れている。
その中に前回、新潟に来た時に立ち寄った冨士屋古町本店や喫茶店の香里鐘(カリヨン)もあった。
新潟を代表するレトロな純喫茶・シャモニー
▲シャモニーは新潟を代表する純喫茶の一つ。
▲モーニングのピザトーストは是非食べて欲しい。
先ほどよりもさらに雨が強くなってきたようだ。
ちょうどレトロな純喫茶「シャモニー古町店」が現れたので、雨宿りがてらコーヒーでも飲んで一息つこうということになった。
店内でコーヒーを飲んでいる内に雲の切れ間から太陽が顔を覗かせる迄に天気が良くなってくれていたので、再びSunBakeがある西堀通りへ出て、神社に向けて歩き始める。
北欧のような優しさに溢れるカフェ・ぴえに。
▲古町エリアは市街活性化にも力を入れていて新たにお店を開く際のサポートもあるのだとか。
すると、通りの並びに昔ながらの2階建ての商店が肩を並べるように3軒連なっているのが見えた。
一番左端のお店が気になり、中を覗き込むとどうやらカフェのようだ。
▲フィンランド語で“小さな”を意味する「ぴえに。」と名付けられたカフェ。
お店からは優しげな雰囲気が感じられる。
「いらっしゃいませ。」と出迎えてくれたお店の方にホットココアを注文すると、実は東京から戻ってきたこの方自身がつい半月前にこの地でお店を開いたことを話してくれた。
店名の「ぴえに。」はフィンランド語で“小さな”という意味なのだそうだ。
「エスプレッソが好きなんです。“小さな”はイタリア語では“ピッコロ”というのですが、ちょっとイメージが変わっちゃうかなと思ってフィンランド語からとったんですよ。」、そう話すお店の方からは、北欧の豊かな時間を思わせるような優しさが感じられた。
▲北前船の商売で栄えた新潟。
白山神社の備前焼の大きな狛犬は、米などを積んだ船が新潟に戻る際、船の重量バランスを取ることにも一役買ったのだとか。
テイクアウト用のカップに入ったホットココアを飲みながら数分ほど歩いてようやく白山神社へと辿り着く。
1000年以上の歴史を持つこの神社は地元の人々、そして新潟で暮らす多くの人々に親しまれ、「はくさんさま」と呼ばれてとても大切にされているのだそうだ。
この日は地元の方が七五三の参拝に訪れていて境内は賑わっている。
お参りをして白山神社を後にしてからは、次の目的地には遠回りになるが、晴れ間が出てきたので信濃川沿いを歩いて向かうことにした。
▲日本一の長さを誇る雄大な信濃川は、日本海と合流する河口付近で穏やかに流れている。
ノ縞屋。海を越え、時間を越えた品々が出会う場所
そうしてやってきたのは、築80年にもなる長屋の一室で、店主が現地で買い付けた北欧食器やバルト諸国、東欧、トルコの雑貨などを取り扱うショップ「ノ縞屋」だ。
「こんにちは」と声を掛けて、ストーブが焚かれた温かな店内へお邪魔した。
この日はニット作家のMactire(マクチーレ)さんの作品展示と販売もしていたようで、1階には丁寧に編まれた素敵な作品が北欧のヴィンテージ食器などと共に並んでいる。
▲店主が買い付けた先を記した地図が店内に貼られていた。
数年前に作ったもので、現在ではもっと多くの土地に赴いているのだとか。
▲1階にはヴィンテージのカップとソーサーがセットで陳列されていた。
2階へ案内して頂くとこちらにはとてもかわいらしい雑貨や、古書、暮らしの道具たちが並んでいた。
一点一点がとても魅力的でつい手に取ってじっくりと眺め見てしまう。
遠く離れた国、時代からやって来た、素敵な品々と出会うことができた。
▲店主自らが買い付けた品々が魅力的なのはもちろんのこと、歳月を重ねた長屋もまた魅力的だ。
古川鮮魚の絶品定食を味わう
気付けばお昼時を回っていたので、僕らは昼食を取るため“市民の台所”として賑わう市場「青海ショッピングセンター」へ向かった。
中は、お昼時を過ぎていたにも関わらず、食事を楽しむ人、何を買おうかと見て回る人々で活気に満ちていた。
入口に近い「古川鮮魚」の前を通ると、「おいしい魚揃ってるよ!お兄ちゃん達どれにする?これがカマス、横が鮭かま、その下がアジ。佐渡のノドグロもあるよ~!」と元気なお母さんに声を掛けられた。
▲古川鮮魚を覗くと明るいお母さんに出迎えられた。
とても美味しそうで「どれにしようかなあ」と迷っていると、「アジおいしいからね、これでいいね!」といつの間にか焼きアジ定食を頂くことになった。
さらに「これは栃尾の油揚げ。本当においしいよ!」と勧められ、つい頼んでしまった。
普段見るよりも一回りも大きい焼きアジを口へと運んでみると、とてもジューシーでふっくらしておりその美味しさに驚く。
「どう?おいしいでしょ?このアジはおばあちゃんが焼いたんだよ。」と先ほどのお母さんが誇らしげにしていた。
▲ジューシーでふっくらした焼きアジと、少しばかり醤油をたらした栃尾の油揚げの味は忘れられない。
街にひらかれた建築事務所。異人池建築図書館喫茶店
この日、夕方の新幹線で新潟を出ることになっていたが、それまでもうしばらく時間があったので、「異人池建築図書館喫茶店」というとても気になる名前の場所へ行くことにした。
新潟は明治維新後に外国へ開かれた港のひとつで、この地にはキリスト教会が建てられ、多くの外国人が暮らすようになったという。
現在は埋め立てられてしまったが、教会の横にはかつて池があり、「異人池」と名付けられたのだとか。
そんな異人池で「東海林健建築設計事務所」が“街に開かれた建築設計事務所”として地域の人々との交流をする中で、“建築事務所が持つ本は街の資産”と考え、地域の公共空間となるべくこの喫茶店が作られたのだそうだ。
▲新潟の新しい公共空間として、訪れた人々は思い思いの時間を過ごしていた。
店内は建築事務所の本だけでなく、一画を自身の本棚として利用できるオーナー制度により、様々な人が揃えた本を見たり、その本を読むことが出来るようになっていた。
とても面白いのは店内に並ぶテーブルはただの“客席”ではなく、事務所の方が建築模型作りなどを行うスペースや一般の人のコワーキングスペースにもなっていて、公共空間として多彩な役割を果たしていることだ。
▲多彩な役割を持った異人池建築図書館喫茶店では、建築事務所の方が模型を作っている様子も見られた。
“建築事務所”というとなんとなく閉じられている印象があるが、建築自体はその建物を使う人の為だけではなく、多くの人々の目に触れ、街の景観を作り、さらには後世の人々へも受け継がれるもので、とても公共性が高いものでもある。
だからこそ、建築事務所と図書館、喫茶店の相性は結構いいのかもしれない。
色々なものがミックスされたちょっと不思議で素敵な空間を通して、新潟の街を知ることが出来たような気がする。
喫茶店での滞在中、今日出会った方々の言葉を思い返していると、なんとなくもう少しこの街の空気を感じてみたくなり、新潟駅まではやや距離があると分かっていながらも歩いて向かうことにした。
異人池の坂を下り、古町通りや本町通りの商店街と交差する道をひたすらに真っ直ぐ進み続ける。
▲夕暮時の萬代橋からは美しい光景が広がっていた。
萬代橋に差し掛かると、沈んでいく夕陽が信濃川の水面をきらきらと輝かせ、街を橙色に染めていた。
もう数十分もすれば日没だ。
予約した新幹線の発車時刻が迫ってきて、僕らは新潟駅へと向けて足早に進んでゆく。
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