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〈広島県 尾道市〉 この街が迎える朝を知りたくて。/ISSUE 009

旅先で迎える朝はどうしてあんなにも魅力的なのだろう。
しんとした空気の中、生活の息遣いだけが聞こえる街もあれば、行き交う人々のエネルギーに満ち溢れた街など、それぞれに違った雰囲気を持っている。

日常に忍び込み、自分があたかもそのまちの一員になったような不思議な感覚が魅力の一つなのかもしれない。

広島県尾道市。この街の“朝”を求めて旅に出た

向島の集落と瀬戸内海越しの因島
向島と因島を結ぶ因島大橋

▲本州側と尾道水道を挟んだ向島や因島は大きな橋で結ばれている。
瀬戸内海を渡って愛媛県今治市まで続くこの道は、「しまなみ海道」と呼ばれる。

尾道市は、向島をはじめとした瀬戸内海に浮かぶ島々と、極めて幅が狭い尾道水道に隔てられた本州側のまちで構成されている。
街の直ぐうしろには多くの寺社仏閣や、民家が建ち並ぶ山が迫っている。

この独特な地形と瀬戸内の気候などが、“映画と文学の街”といわれるほどの文化を作り出している。
この街では毎日どんな“朝の風景”が繰り返されているのか、どうしても体感したくなった僕らは尾道に2泊することにした。

「どうせならそれぞれ違うところに泊まってみたい!」と思い、1泊目は尾道駅から東へ向かって長く伸びる商店街の中にあるゲストハウス「あなごのねどこ」を、2泊目は千光寺へ上がる途中にある空き家をリノベーションしたゲストハウス「みはらし亭」を予約した。

「あなごの寝床」と夜の尾道

1日目、尾道に着いたのはすっかり日が暮れた後だった。
ポツリポツリと明かりが灯る商店街を進んでいくと一際明るく、賑やかな雰囲気を醸し出しているのがあなごのねどこだ。

夜の山陽本線を行く普通列車

▲商店街を進む途中、警報器の音が聞こえる方に目をやると山陽本線を普通列車が走り抜けていった。
踏切の先は、持光寺へと至る長い階段が延びている。

なんとも面白い名前をしているが、これは尾道の町屋によくある、間口が狭く奥行きが長い建物の特徴と広島の特産であるあなごを掛け合わせたものなのだそうだ。

この日は尾道ラーメンを食べてから夜遅くまでやっている喫茶店「香味喫茶ハライソ珈琲」でコーヒーを飲みながらケーキを食べてのんびりと過ごした。

商店街の一角にある建物の2階にある為、アーケードの一部や、通りを行く人々が見える。
旅先の朝もいいのだが、このような時間を過ごしていると夜もとても良いものだと思う。

翌朝、目を覚ますと普段とは違う空気に、一瞬“今自分はどこにいるんだっけか?”と不思議な感覚に陥る。
しかしすぐに尾道に来ていたのだと思い出す。

あなごのねどこの館内の廊下壁面に描かれた旅人たちのメッセージ

▲あなごのねどこの館内の廊下には、ここを訪れた旅人たちの思い出が刻まれていた。

尾道水道と渡船。港町が繰り返す光景

支度を済ませて外に出てみた。
この日は日曜日だからか人通りもまばらで落ち着いた港町の雰囲気が漂っていた。
折角なので商店街を逸れて海沿いの通りに出てみる。

尾道水道をゆく渡船

▲僅か200〜300m程の尾道水道は駅前渡船・福本渡船・尾道渡船の3社によって船でも結ばれている。
各社で発着地や自動車積載の可否が異なるため、利用目的によってうまく棲み分けがされているのだそう。

対岸の向島と本州側は「しまなみ海道」を構成する橋で結ばれているが、これ以外にもフェリーで行き来することが出来る。
ちょうど人々が動き始めた時間になったのか到着したフェリーからは多くの地元の方が降りてきた。
きっと日常のワンシーンなのだろうが、とても魅力的に見える。

尾道水道を越えて、向島で出会える景色

その後自転車を借り、先ほど見たフェリーに乗って向島へと行ってみることにした。
島を半周する途中、山の中腹のチョコレート工場「USHIO CHOCOLATL」に立ち寄る。
六角形をしたユニークな味わいのチョコが特徴だ。
工場にはカフェが併設されていて、絶景を眺めながらチョコを食べることができる。

USHIO CHOCOLATLで作られているチョコレート

▲向島の山の中腹にある「USHIO CHOCOLATL」は六角形の形状と洒落た包装が特徴のユニークなチョコレート工場。
併設のカフェからは向島の集落と瀬戸内海の景色を見渡すことが出来る。

後藤鉱泉所が販売する瓶入りのマルゴサイダー

▲島内を自転車で走っているとレトロな瓶入りサイダーが置かれたお店を見つけた。向島を訪れた際は是非、昭和5年創業の後藤鉱泉所の販売する「マルゴサイダー」で喉を潤してほしい。

山道を下り、再び市街へ戻るフェリーに乗り込んだ。
本州側へ戻った後は自転車を返却し、2日目の宿みはらし亭を目指して商店街を抜けてゆく。

途中で山陽本線の踏切を渡ってからは300段以上もの階段を上がっていき、ヘトヘトになりながらもようやくたどり着いた。

この街を見守り続けるかつての“茶園”、みはらし亭に泊まる

尾道では、豪商などが千光寺山の斜面に“茶園(さえん)”と呼ばれる別荘を建て、お茶を楽しむ独特の文化があった。
みはらし亭もかつて折箱製造業を営む豪商によって、大正10年に建てられた茶園の一つなのだとか。
斜面からせり出すように建ち、海側に向かって大きな窓ガラスが連続して設けられた独特の建物だ。

みはらし亭の1Fカフェで提供されるモーニング

▲「みはらし亭」1階のカフェで朝日に照らされながら朝食を食べた。旅先で迎える朝はなんとも魅力的だ。

尾道水道と市街を一望できる和室で一晩を過ごし、翌朝は1階のカフェで朝食を取った。
前日に引き続き、やはり尾道の朝の空気はとても素晴らしかった。

千光寺へと続く階段にはチラホラと人の気配があったがとても静かだ。
朝日に照らされた尾道水道には幾つもの船が行き交っている。

みはらし亭から眺める尾道の街と尾道水道

▲朝食をとりながら背後に目をやると、尾道のまちと、キラキラと反射する尾道水道の風景が眼下に広がっていた。

同じ街でも、泊まる場所が変わると印象も多少変わるようだ。
尾道は一度や二度でなく、何度でも訪れたくなってしまう。
「次はどこへ泊まろうか?」そんなことをついつい考えてしまっていた。

「シネマ尾道」映画の街の、小さなシアター

MIDNIGHT ISSUECAN #01 街に映画館があるだけで。〈シネマ尾道〉

いつだったかこんな言葉を聞いたことがある。
「街に映画館がひとつあるだけで、文化的生活レベルが格段に上がる。」

確かにそうかもしれない。
サブスクで気軽に映画が見れる時代になっても、やっぱり映画館の雰囲気というのは堪らなく素敵で替え難いモノがある。

シネマ尾道は、「映画の街」なのに映画館が無いことをなんとかしたいと河本清順さん代表の「尾道に映画館をつくる会」と多くの個人や企業の協力で作られた。

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