自分が暮らす街で一番好きと言える場所はあるだろうか。
誰かを連れて行きたくなるような場所はあるだろうか。
今回の新潟の旅は、実のところある一つの商店に訪れることが目的だったと言っても過言ではない。
新潟県新潟市中央区の大川前通りと本町通りを繋ぐ細い路地にある小さな雑貨店「ノ縞屋」(のしまや)。
築80年を超える古民家の中にひっそりと佇むそのお店を僕たちは、新潟で暮らしていたある人の紹介によって知ることになった。
そのある人とは、9月の初旬「古町の魅力を形に残したい」という一通の便りをくれた相手であり、
今回の新潟の旅のきっかけをくれた人物だ。彼女はノ縞屋について新潟で生活をしてく中で偶然出会い、一番好きになった場所だから是非訪れてみてほしいと嬉しそうに語ってくれた。
街で暮らしていた彼女にとっての一番好きな場所。それは一体どんな場所なんだろう。
新潟へ向かう新幹線の中で僕らは期待と少しの緊張感を覚えていた。
「モノを見つけ、人と出会う。」
▲ 店の周辺には古町らしい景色として多くの長屋が集まっていた。
駅から店へは徒歩20分ほどかかるが僕らが泊まるホテルからは近く、徒歩10分もかからない場所にあった。
11時の訪問で約束していたため5分前に到着していたが店に入るのを躊躇ってしまう。
紹介してくれた彼女のある言葉が頭をよぎるからだ。「店主のお父さんもとても素敵な人なんです。」
“店主のお父さん”は一体どんな方だろうか。
もしかして寡黙な職人気質の方だったりするんだろうか。
それとも穏やかで優しそうな方だろうか。
いや、やっぱり強面の頑固そうな方だったりしないだろうか。
頭の中でそんな問答を繰り広げ若干の、いやなかなかの緊張感が僕らの足を重たくさせていた。
▲ ストーブの焚かれた温かな店内には小さな音で流れるビートルズの曲と共に素敵な雑貨や作品が並べられていた。
「こんにちは」そう声を掛け、意を決して店内に足を踏み入れると1人の男性が迎え入れてくれた。
語りかけるような口調から、マスク越しでも穏やかそうな雰囲気の方というのが伝わる。
この男性こそ“店主のお父さん”ことノ縞屋店主の野島さんだった。
妄想に取り憑かれていた僕らは一瞬で安堵した。
ノ縞屋は看板にもある言葉「モノを見つけ、人と出会う。」の通り、店主自ら現地で買い付けた北欧食器やバルト諸国、東欧、トルコの雑貨などを取り扱っているお店。元々新潟市の隣に位置する三条市で金属関係の会社で勤務されていた野島さんが退職を機に一念発起して始めたらしい。
北欧や東欧の雑貨についても「こういうの集めるの好きだったんですよ」と微笑みながら話してくれた。
雑貨店だけでなくギャラリーという一面も
▲「初めた頃はそこの棚も3×3ぐらいしかありませんでした」。
今では2階まである商品も最初は小さなスペースからのスタートだったとのこと。
店主の野島さんは毎年2ヶ月ほど買い付けに現地を訪れており、一度の渡航で10ヶ国ほど周って気に入ったものを見つけるのだそう。最近は戦争の影響で渡航が難しいため、その分お店では展示会なども行なっていると教えてくれた。
その日はちょうど展示会の開催期間であり、ニット作家Mactire(マクチーレ)さんの「旅する羊 2」が開催中だった。「もしも飛鳥時代に羊文化が定着していたら…」と副題の付けられたこの展示会では日本の飛鳥時代に羊の飼養が始まっていたらきっとこんな柄の製品ができていたのではないかということをコンセプトにした展示会。作家さんご本人も在廊されていて羊毛についての話も聞くことができた。
▲ 日本で羊毛文化が栄えた世界を垣間見ることができた気がした。会期は10/29(土)〜11/7(月)。
古町と北欧
時にギャラリーにもなる素敵な古民家。でもどうしてこの場所でお店を開こうと思ったのだろう。気になった僕らがその訳を尋ねてみると意外な答えが返ってきた。
「古町と北欧って少し似ている気がするんですよ。海が近くて雪が少ない。北欧の方がずっと寒いんですけどね。」
新潟と北欧が似てるとは思ったことがなかった。行ったことがないから想像のしようもないが、確かに言われてみれば特徴としては似ている気がする。
もしもっと寒い雪が降るくらいの季節にここを訪れていたらどうだったんだろう。今よりも海の向こうの世界が重なってくるんだろうか。そんなことを考えながら陳列された古い異国の品々を眺めていると、その旅路の果てが今ここにあることに気がつき、小さな喜びを感じた。
▲引き出しの中にも商品があり、開け閉めは自由。階段を上がった2階にも絵本や食器が並べられていた。
ノ縞屋のおもてなし
話も落ち着き、何かお土産でもと商品を選びながら店内を物色していると、店主の野島さんがお茶を淹れてくれた。この日淹れてくれたのは温かいほうじ茶。
「うちでは必ずお茶のおもてなしをしているんです。2杯。」
なんでも冬はほうじ茶。春は野草茶。夏は煎茶。と季節毎に淹れるお茶を変えて訪れた客に提供してくれているのだそう。肌寒い新潟の気温にこのほうじ茶は有難い。
▲5周年記念のオリジナル商品「Oak Tray」に載せて提供されたほうじ茶。
和菓子のお皿にと思い、お土産に購入して行くことにした。
ノ縞屋では周年でオリジナル商品をいくつか作成しているらしく、ほうじ茶は5周年記念の「Oak Tray」に載せられていた。3周年には「北欧デザイン手拭い」、今年の7周年には「ヌメ革ペンケース」を作成しておりいずれの商品も店内で販売されていた。
次は3年後の10周年。何を作るかはまだ考え中とのことだが次も楽しみだ。きっとその時にはまたノ縞屋へ訪れ、異国への想いを馳せながら買い物や談笑などここで流れる静かな時間を楽しむのだろう。
帰り際、店内を出て入口に戻ると、来る時には気がつかなかったが看板の先が小さなトンネルのような作りになっていることに気がついた。
トンネルの先の素敵な雑貨屋「ノ縞屋」。
僕達にとってもこの街の一番好きで誰かを連れて行きたくなるような場所ができたことがこの旅の何よりの収穫であった。
text: Masato Okada
古町は、立ち去りがたいほどの魅力と出会う街
ノ縞屋が店を構える新潟市古町。
日本最長の河川・信濃川が日本海へと注ぐこの街は、様々な文化や人、モノが出会い新しい風が吹いている。
信濃川沿いを散策しながら食べたい「SunBake」のパンや、レトロな純喫茶「シャモニー」、昔ながらの魚市場で味わう絶品焼き魚定食など食文化も充実している。
立ち去りがたいほどの魅力に出会える街、それが古町だ。
コメント