「旅の満足度は大体宿で決まる」僕がまだ旅行会社で働いていた頃、上司にそんなことを言われた記憶がある。
たしかに旅の計画の中でも一番最初に決める部分だし、到着した時に建物が大きかったり、
エントランスが豪華だった時の高揚感はその旅のハイライトと言っても良い気がする。
観光スポットが微妙でも、名物が口に合わなくても大した問題にはならないけど宿がダメだとかなりガッカリするし、
ダメージも一番大きいんじゃないだろうか。
もちろんそれだけお金をかけてるからなんだろうけど、意外と良い宿に巡り合うのって難しかったりして、
口コミやパンフレットでいくらリサーチしていてもその人にとって良い宿かどうかは本当に運だったりする。
京都にできたアジア初のエースホテル
▲ 建築家 隈研吾が建築デザインを監修したことでも知られる「エースホテル京都」。
京都に泊まるなら実際どんなところが良いんだろう?
京都っぽい和のイメージを優先して渋い旅館も良いかもしれない。
逆にモダンでスタイリッシュなホテルもハイカラな京都らしい気もしてきたり…。
そんなことを考えながら今回の宿泊先に選んだのは「エースホテル京都」。
シアトル発“ライフスタイルホテル”の先駆け的存在なんて言われてるらしい。
だけどライフスタイルホテルってなんだろう?
調べたところによると、どうやらライフスタイルホテルとはデザイン性の高い空間と、
宿泊以外の付加価値をテーマとしているホテルのことを言うらしい。
テキストを読んでもなんだかよくわからなかったけど、
さてさてこのライフスタイルホテルとやらは今回の京都旅で求めている宿なんだろうか。
デザイン性はなんとなく想像がつくけど宿泊以外の付加価値ってなんだろう?
エントランスってホテルの顔
▲ 特徴的な天井照明に照らされたエントランスにはポートランド発のカフェ「スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ」も併設。
宿泊者以外も利用可能なエリアになっている。
デザイン性の高い空間とは聞いていたけど到着早々エントランスから受けたファーストインプレッションは溢れ出る“海外感”。
京都なのに。古の都なのに。国内旅行に来たはずの自分が外国人観光客になったかのような高揚感が湧きあがる。
やっぱり天井が高い空間って好きだ。
xevoΣ(ジーヴォシグマ)の竹野内豊じゃないけど、天井の高さは永遠の憧れで高揚感のスイッチな気がする。
外観はもちろんなんだけどエントランスってホテルの顔なんじゃないだろうか。
別に天井が高いのが顔が良いって話ではなくて、足を踏み入れたその瞬間にワクワクのスイッチがオンになるかどうかって話。
もちろん顔だけじゃなくて中身で判断してほしいってのは常々思ってるわけだけど。
柚木沙弥郎が手がけるグラフィックの数々
▲ 柚木沙弥郎のグラフィックはフロア案内やホテルマップ、カードキーなど、ホテルの至る所で見かけることができる。
エントランスでチェックインを済ませたので、部屋へと向かう。
これを読んでる皆さんは染色工芸家の柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)ってご存知だろうか。
人間国宝となった染色工芸家、芹沢銈介(けいすけ)の弟子で御年100歳の大巨匠だ。
僕は恥ずかしながらエースホテル京都に泊まることを決めるまでは名前すら知らなかったのだけど、
ホテルのロゴやフォントなどのグラフィックは全て柚木沙弥郎が手がけている。
染色や版画などから生み出される作品群はまさに日本の素晴らしき民藝文化であり、
ホテルで見かける全てのデザインがものすごくモダンで可愛らしくてかっこいい。
約4年の歳月をかけて作成されたらしいこのグラフィックが生み出す化学反応こそがエースホテル京都最大の特徴と勝手ながら言いたい。
お部屋のBGMはレコードをかけて
▲ 客室に設置してあるレコードプレーヤーでは気分に合わせて様々なレコードを楽しむことができる。
実はずっとやってみたかったレコードをかけるという行為。
最近はレコードを買う人も増えてきていると聞くけど、そんなにお洒落な音楽の楽しみ方をするほど音楽への熱量はなく。
イヤホンで楽しむだけにみえた20代の終わりでようやくそのチャンスが巡ってきた。
今回エースホテル京都に泊まることを決めた時からこれが結構楽しみだったので、
部屋に入るや否やレコードをかけてみようと置かれているレコードたちを物色…。
結果なかなかに騒がしい曲が多い。
この部屋のレコードセレクトはちょっと気が合わないかもしれない。なんて思ったけど心配はご無用。
部屋に好みのレコードがなくても1階エントランス奥にあるレコード棚から自由にレコードをレンタルすることもできるので、
結局ジャズのレコードを2枚拝借。ゆったりとしたBGMで静かにホテルでの時間を過ごすことに成功した。
新風館という京都の新たなランドマーク
▲ ホテルが入居する複合施設「新風館」。中庭を囲むように様々なお店が出店している。
客室で一息ついたので、気になっていたホテルの宿泊以外の付加価値の部分を掘り下げてみることに。
宿での部屋以外の楽しみといえばなんだろう?僕の場合は売店が思い浮かぶ。
よく温泉宿に泊まった時には風呂上がりに売店でアイスやおつまみを買って部屋に戻ったり、
お土産の試食コーナーを物色したりしてしまうんだけど、その点でエースホテル京都は宿に期待する売店のレベルを遥かに超えている。
理由は「新風館」という存在。
古くは「京都中央電話局」として建てられ、2020年に再改築を経て開業した複合施設で、
エースホテル京都もこの新風館に入居している施設の一つ。地下には映画館、1階には飲食施設や人気のセレクトショップが多数出店していて、
正直ホテルに泊まらなくてもここだけで十分に楽しめてしまう京都の新たなランドマークだ。
アイスだけでも嬉しくなれると言うのに、広い中庭でお土産や服をみたり、地下では映画も観れたりするんだから堪らない。
まあこれを宿の売店と比較するのは正しくないのかもしれないけど。
どうやら宿泊以外の付加価値って宿泊客のためだけじゃなくて、新風館の一部として街の人が気軽に足を運べる空間になるってことだったんだな。
柚木沙弥郎展でエースホテル京都を振り返る
▲ 東京の「日本民藝館」では生誕100年を記念して「生誕100年 柚木沙弥郎展」が開催されていた。
※開催期間は2023年1月13日(金)〜4月2日(日)
京都での旅を終えて、後日「日本民藝館」で開催されていた「生誕100年 柚木沙弥郎展」に足を運んだ。
作品はどれもやっぱり魅力的でエースホテル京都でみた化学反応も脳裏に蘇ってくる。
そもそもこのエースホテル。なんで東京じゃなくて京都をアジア初進出の場所にしたのかと言うと、
エースホテルのコンセプトにもある「その土地の文化との共生」ができる日本で唯一の場所と考えたかららしい。
たしかに何百年も昔の神社仏閣とコンクリートの景色が交差する様は「新旧の共生」だし、京都の街を象徴としているものな気がする。
そういった文化へのリスペクトを反映させたホテル作りが、街の景色に溶け込む空間を生み出すライフスタイルホテルってことなんだろうな。
いろいろな街について書いてく中でも常々思うことだけど、それぞれがそれぞれの方向を向いてしまいがちで
景色に溶け込むって考え方に基づいて何かを作るのって意外と難しい。
そう思うと街の一部という考えを持ちながらこれからの京都の景色を作っていこうとしているエースホテル京都は
今の僕が出会いたい宿だったと思う。今回の宿選びはどうやら運が味方したみたいだ。
text:Masato Okada
エースホテル京都(Ace Hotel Kyoto)
◇京都市中京区車屋町245-2 新風館内
京都市営地下鉄「烏丸御池駅」南改札直結(京都駅から電車で約6分)
HP-https://jp.acehotel.com/kyoto/
久しぶりの京都ではまた知らなかった景色を見ることができた
〈京都府京都市〉老舗とニューウェーブを巡って。/ISSUE014
「そうだ」この一言で大体の日本人はこの街のことを思い浮かべる呪いにかけられている気がする。
およそ3年ぶりに訪れた日本を代表とする街、いや、“This is 日本”といえる京都の街。
百年生き抜く老舗の名店から新しい伝統を築き始めている“ニューウェーブ”まで各所を巡ってみると
以前とはまた変わって京都の知らなかった景色を見ることができた。
京都のレトロ喫茶で世界一のフレンチトーストを味わう
〈スマート珈琲店〉世界一のフレンチトーストは老舗の喫茶店に。
京都で長年愛される「スマート珈琲店」は趣と歴史ある数々の老舗が並ぶ寺町専門店会商店街の中にある。
ここのフレンチトーストは世界一の味。
スマート珈琲店の代表格といえば名物のホットケーキとの声もあるが、
それでも他で食べるフレンチトーストよりどこをとっても一つ上回る美味しさなのだ。
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