カルチャー

〈清水エスパルス〉サッカー王国で出会うオレンジ色の熱気。

サッカーをプレーしたことはほとんどない。
学生の頃に体育の授業で遊びみたいなレベルのフットサルをやったことがあるくらいだろうか。

フットサルとサッカーは別の競技だろうからほとんどというのは嘘で一度もないが正しいかもしれない。

まあどちらの競技にしてもこのボールを蹴る「蹴球」というスポーツをするのが僕は嫌いだった。

なぜ嫌いか。
その理由はシンプルできっかけは僕が小学生の頃にまで遡る。

ある日近所の公園で友達とフットサルのようなことをしていた時に“キーパー”を担当することがあった。

キーパーというのはゴールを守ることが仕事なわけだが、
当時少し野球をやっていたこともあり、ボールを手で押さえることにはそこそこ自信があった僕は意気揚々とゴール前のポジションについた。

試合が進み、ひとりの子が勢いよくボールを蹴る。シュート!

ゴール目がけて飛んでくる直径22cmのボールを弾こうと伸ばした僕の手はボールのわずか上。
その下をかすめたボールは無情にも僕のお腹目がけて飛び込んできた。

当然悶絶。

お腹を思いきりパンチされたような衝撃に吐き気が止まらずその場でのたうちまわったことは忘れない。
もちろん悶絶しながらもゴールは死守した。

あの日以来僕はボールを蹴る遊びを嫌うようになったわけだが、
時間の経過と共にお腹に覚えた苦しみの記憶は薄れ、サッカーを観ることだけなら楽しめる大人になってきていた。

清水エスパルスはサッカー王国静岡の名門クラブ

▲ 清水エスパルスのチームカラーであるオレンジは静岡県の名産である“ミカン”の色が由来らしい。

そんなこんなで舞い込んできた静岡遠征。

静岡といえばお茶や富士山などが真っ先にイメージとして上がるだろうが、忘れてならないのがサッカーだ。

数多くのJリーガーを輩出し、県内のサッカー強豪校は全国高校サッカー選手権で数多の優勝を誇っている。

せっかく静岡に行くならサッカー王国でサッカー観戦をしてやろうじゃないかと僕は日本平の地に降り立ったのだった。

観戦する試合はJ2で19位と低迷している「清水エスパルス」VS好調2位の「東京ヴェルディ」。

清水エスパルス はJリーグ発足時のオリジナルクラブにも数えられる名門クラブでありながら、昨季の成績不振により降格。
今季からはJ1の一つ下のカテゴリであるJ2でのプレーとなっているが根強い地域の人気に支えられている。

その証拠に試合会場である清水エスパルスのホームスタジアム「IAIスタジアム日本平」に到着すると、
試合前にもかかわらずサポーターの叩く太鼓の音やチャントが響き渡り、スタジアム内にはオレンジ一色の景色が広がっていた。

いざ、今季初勝利をかけて挑む東京ヴェルディ戦

▲ この日の来場者数は1万人以上。サポーターの多くがオレンジのユニフォームやアイテムを身につけて応援していた。

オレンジの景色に後押しされながら始まった試合は前半早々に動き出す。

前半6分。
セットプレーの流れから東京ヴェルディ林選手の右足から放たれたミドルシュートで1点を先制されてしまう。

ここまでJ2の7試合で一度も勝利できていない清水エスパルス。
好調の東京ヴェルディが先制することはある程度予想できていたが流石に早い。

おいおい、これ大丈夫か。

立ち上がりの東京ヴェルディの猛烈なプレスからのこの先制点は下手をすると清水エスパルスの大量失点さえ予感させるものだったが、
是が非でも初勝利を掴みたいホームチームが次第に意地を見せ始める。

前半35分、43分と立て続けに相手ゴールへ迫ると、前半終了間際の47分。
中央に位置していた中山選手が3人の相手選手を引きつけて右の北爪選手へスルーパス。
振り抜いた右足のシュートはゴールに収まり清水エスパルスが1-1の同点に追いついた。

激闘、そして決着へ

▲ 緊迫する試合を見つめるサポーターたち。一つ一つのプレーに対しても拍手や歓声で選手たちを後押しする。

後半も清水エスパルスは攻撃の手を緩めず、再三チャンスの場面を作るがあと1点が遠い。

得点が奪えないまま攻撃が落ち着けば次は東京ヴェルディのターンとばかりに守備に回り、我慢の時間も増えていく。

交代カードも使い切り、激しい攻防を繰り返す両チームは試合終盤へと向かい試合はこのままドロー決着の予感が漂い始めていた。

ここでサッカー素人の僕は思う。いや、願っていた。

せっかく東京から静岡まで来たのでドロー決着ではない方向でお願いします。なんとか1点決めてくれ。

そんな浅はかな願いを神が聞き入れたのか、試合は劇的なラストを迎える。

試合終了間際、清水エスパルス神谷選手のコーナーキックに途中出場のオ・セフン選手が頭で合わせ決勝ゴール。
開幕から8試合目にしての劇的な逆転勝利だった。

初勝利に湧きあがる歓声と12番目の選手たち

▲ 試合後、応援してくれたサポーターに向かって選手やマスコットキャラクターの「パルちゃん」が感謝の挨拶をしていた。

「ナイスゲーム!」

スタンドからは戦った選手達に向けてサポーター達が声を上げていた。

辺りを見回すと老若男女さまざまな人たちが嬉しそうに選手に声をかけたり、手を振ったりしている。

よくサッカーではサポーターは12番目の選手と言われることがある。

プレーをしているのはフィールドの11人だけど戦っているのはサポーターも同じということらしいが、
自分のことじゃなくても本気で喜んだり、時には泣いたり、その活躍に一喜一憂する姿を見ていると本当にそうなんじゃないかと思えてくる。

強い日差しの中行われたこの日の試合、ただのサッカー観戦にきたつもりだったけど、
サポーターという12番目の選手たちに混ざって応援をしているうちに僕も一緒に戦うチームの一員になれた気がしたし、
フィールドで戦うのは嫌いでもスタンドで一緒に戦うことは好きになれたような気がした。

それはもしかするとサッカー王国で出会ったオレンジ色の熱気にやられたおかげかもしれない。

text:Masato Okada

清水エスパルス(SHIMIZU  S-PULSE)

◇ ホームスタジアム-IAIスタジアム日本平 
アクセス-JR清水駅からシャトルバスで20分 
住所- 静岡県静岡市清水区村松3880-1 HP-https://www.s-pulse.co.jp

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