青々と茂っていた木々の葉が赤や黄に色づき、冬の足音がだんだんと近づいてくると、どうしてか東北の温泉地を旅したくなる衝動に駆られます。
ピンと張りつめたような厳しい寒さの温泉地や、雪の降り積もる東北の温泉地のことを想像すると、冬らしさを感じながら「全身が芯から暖まるような温泉にゆったりと浸かりたい」と思うのです。
東北の温泉地といえば「こけし」が思い浮かびますよね。
縁起物でもあるこけしは、元は子ども用のおもちゃとして広まったものなのだそうです。
しかし、大正時代に入り大量生産のおもちゃが一般的になるにつれて、子ども用のおもちゃとしての役目を終え、東北の温泉地の土産物として残ったのだと言われています。
弥治郎こけしとの出会いは「ててて商店街」
▲東北各地のこけしは、その地域ごとにデザインが異なるのが面白い。
夏に訪れた、東京ステーションギャラリーで開催されていた展示「東北へのまなざし 1930-1945」で、宮城県・鳴子や遠刈田、作並、山形県・肘折などのずらりと並んだ各地のこけし達に出会い、「いつか我が家にもこけしを!」そう思っていました。
秋の深まりを感じる10月の終わり頃、「ててて商店街」で東北の職人が手掛けたこけしに触れる機会がありました。
並べられた作品を見ていると「こけし、興味ありますか?」とスタッフの方に声をかけてもらいました。
「家にひとつ置いてみたくて」そう答えると、こけしのことをとても丁寧に教えてくれました。
お洒落な“ベレー帽”と、優しげな表情が魅了する
▲ベレー帽をかぶっているような見た目が特徴の「弥治郎こけし」は、ロクロ模様が多用されている。
創作こけしや伝統的な遠刈田系こけしも並ぶ中で気になったのが、宮城県白石市の弥治郎こけしです。
「頭に描かれた模様がベレー帽を被っているみたいでかわいいでしょう。ロクロを使って描かれた模様で、胴にもロクロ模様を多用しているのが弥治郎系の特徴なんです」とのこと。
確かに見た目もカラフルでかわいらしく感じます。
表情もどことなく優しげで、これは東北の中でも南部寄りの比較的穏やかな気候が影響しているのだと言います。
それぞれの地域のこけしを見ていると、梅や山桜など自然の植物が共通して描かれていることに気が付きます。
気になって聞いてみると、「東北の雄大な自然と、そこでの暮らしとの距離の近さがこけしの模様にも表れているのですよ」と話してくれました。
例えば、遠刈田系こけしには山桜が描かれていることが多いそうですが、その花びらの形はややいびつにも思えます。
これは背後にそびえる蔵王の山々に吹き付ける風が桜の花びらを流す様子が表現されているのだそうです。
受け継がれる伝統。絵柄の滲みさえも美しく
▲木目に沿って現れる“滲み”は天然素材ならでは。
こけしに描かれる絵柄は地域の中で師匠から弟子へと受け継がれていくとても大切なものなのだそう。
だからこそ、創作こけしといった新しいものに挑戦しながらも、伝統的なスタイルのこけしは絶やすことなく作り続けられているのだそうです。
絵柄をよく見てみると、木目に沿ってわずかに滲んでいることがわかります。
こけしは自然の木々から作られたもので、工業製品ではないからこそ表れる滲みが美しいのだと言います。
東北の地が生み出し、脈々と受け継がれる伝統工芸「こけし」。
この冬は、東北のどこかにこけしを求めて旅に出るのもいいな、そんなことを考えてみるのでした。