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〈静岡県 静岡市・焼津市〉心地よさに出会える、一泊二日の週末旅。-Day2/ISSUE017

〈静岡県 静岡市・焼津市〉心地よさに出会える、一泊二日の週末旅。-Day1/ISSUE016に引き続き、以前勤めていた旅行会社の同期で、静岡出身の友人が案内してくれた静岡旅の2日目。

駿河湾の豊かさと雄大さを感じ、民藝・工芸にふれてまわった。

新しい風が吹く、漁港のまち用宗にある海辺のカフェ。FesCoffee

ホテルを出て一つ目的地へ向け車を走らせる途中、車中で飲むコーヒーを求め用宗に立ち寄ることに。
用宗は昔ながらの雰囲気を色濃く残す漁港の町。

近年は町の文化に溶け込む新しい商業施設が次々とオープンしている。
訪れた「FesCoffee」が入る「HUT PARK」もそんな施設のひとつ。

FesCoffeeが入るHUT PARK用宗の外観

▲海辺のリゾート的な雰囲気が漂うHUT PARK。
目の前の通りを渡れば用宗海岸が広がる。

FesCoffeeは自家焙煎のコーヒー豆を使ったエスプレッソ系のメニューを中心に揃えている。
運営するのは焼津の音楽レーベル「LUSH MUSIC」で、お店のロゴにも音楽記号があしらわれていた。

客席はカフェに隣接するギャラリー内に設置されていて、素敵な陶磁器作品に囲まれながらこだわりコーヒーを味わうことができる。

用宗海岸でコーヒーを味わう

▲穏やかな時間が流れる用宗海岸でこだわりのコーヒーをじっくりと味わった。

僕らは注文したコーヒーを手に、目の前の道路を渡り、松並木を抜け用宗海岸へ降りた。
海岸には波打ち際で遊ぶ家族連れや、のんびり散歩する地元の人たちの穏やかな時間が流れていた。

〈Fes Coffee By Lush Music〉 漁港の町 用宗で、コーヒー片手に心地のよいひとときを。

静岡市立芹沢銈介美術館で、人間国宝の意外な顔を見る

用宗海岸にし、お次は登呂遺跡に隣接する「静岡市立芹沢銈介美術館」へ。

ここは人間国宝で、民藝運動の中心的人物のひとり柳宗悦に強い影響を受けた染色工芸家・芹沢銈介の作品を収蔵する美術館。

建築家・白井晟一設計の建物は、遺跡と周辺の自然に溶け込むよう石や木などの天然素材が多用され、池を取り囲むように配置されている。

静岡市立芹沢銈介美術館の白い石積みのアプローチの途中にある池と松

▲白い石積みの外壁の間を抜け、美術館へ一歩足を踏み入れると、静かさと“人間国宝”の響きに背筋が伸びる思いだった。

館内では芹沢銈介の生い立ちに関する資料、作品の数々、工芸品コレクターとしても知られた芹沢銈介自身の民藝コレクションをゆっくり鑑賞できる。

日曜日には東京の大田区蒲田から美術館横の敷地に移築された芹沢銈介の自邸が公開されている。
愛着を持って「ぼくの家は農夫のように平凡で、農夫のように健康です。」と語っていたように、素朴ながら随所にこだわりを感じられる造りが見てとれた。

素朴ながら美しい家具などの調度品が展示されたかつて大田区蒲田にあった芹沢銈介の自邸

▲素朴ながらこだわりの詰まった住居はなんともいえない美しさがあった。

染色界の重鎮で人間国宝ときくと、弛まぬ努力を重ねた厳格な人物像が想像されるが、意外に実直で穏やかだったそう。

下絵の線画ズレたり、型紙を切り過ぎたりしても「あ、取れちゃった」と言いながらその部分も生かした図柄を作っていたのだとか。
美術館や創作の場でもあった自邸を見ていると純粋に創作を楽しむ芹沢銈介の姿が目の前に浮かび上がってきた。

〈静岡市立芹沢銈介美術館〉デザインはやがて民藝運動の中心へ-自由な精神とその生き様に触れて

ヒシダイ大石商店「どんぶり工房」の生しらすは、透き通るほどの透明感

美術館からは車で5分もかからない「ヒシダイ大石商店 どんぶり工房」で昼食を取ることに。

南アルプスや富士山から流れる河川がそそぐ駿河湾は良質な餌が豊富で、しらすや桜海老が特産のひとつだ。
早朝に港を出た船は、すぐ近くの漁場で漁を行い、港へ戻ると獲ったしらすはすぐにせりにかけられる。
だから駿河湾のしらすはとにかく鮮度が高く美味しいのだそう。

ヒシダイ大石商店の外観①
ヒシダイ大石商店の外観②

▲ヒシダイ大石商店には用宗港で朝一番に水揚げされた新鮮なしらすが運び込まれる。

ヒシダイ大石商店は、用宗港で水揚げされた海産物の加工販売を行なう。
直営のどんぶり工房ではそんな新鮮な海産物をふんだんに使った丼を味わうことができる。

生しらすは漁のある日限定で提供されていて、1月中旬から3月中旬までの禁漁期間が設定されていることから年間で限られた日しか味わえない貴重なメニューだ。

ヒシダイ大石商店の、透き通るほどの透明感の生しらす丼

▲鮮度抜群のしらすは透き通るような透明感にあふれていた。

迷いながらも注文したのは生しらすと釜揚げしらすのハーフ丼。
鮮度抜群の生しらすは透き通るほどの透明感でくせのない旨みが口いっぱいに広がった。

食べ終える頃には注文カウンターに十数組が並んでいた。
これだけ美味しい丼がリーズナブルに食べられるとあって休日のお昼は混雑するらしい。
次は国内では駿河湾でしか漁獲が認められていない桜海老を使った丼も食べてみたい。

駿府の工房 匠宿。駿河の伝統工芸品にふれる

富士山や駿河湾に代表される豊かな自然や、海が近く交通の要所として発展した工業のイメージも強い静岡。

一方で、徳川家康が生涯の三分の一を過ごしたとも言われる家康ゆかりの地・静岡は、久能山東照宮や静岡浅間神社の造営にあたって全国から腕の良い職人が集まり伝統工芸が発展した歴史も。

この地で受け継がれる伝統工芸を体験できるのが「匠宿」だ。
工房のほか、現代のライフスタイルにも馴染む伝統工芸品や暮らしの品が揃うショップ、カフェもあるモダンな複合施設。

チェアやアート作品も置かれた木漏れ日さし込む匠宿の中庭

▲アート作品や木漏れ日のさすチェアが置かれた中庭でのんびりくつろぐ人も多くいた。

4つの工房のひとつ「竹と染」で体験したのはこの地に伝わる竹細工「駿河竹千筋細工」だ。

竹を平たく加工した“平ひご”を使う竹細工が多いのに対し、細く割った竹を円形に削った“丸ひご”を使うのが特徴。
しなやかな丸ひごで作られる駿河竹千筋細工は“繊細で優美”とも形容される。

美しい曲げ加工が施された駿河竹千筋細工の花器

▲体験製作した繊細で優美な駿河竹千筋細工の花器。

体験キットは穴開けや曲げ加工が済んでいるものの、想像以上に難しく苦戦する場面も。
そんな時は工房の人が親切にサポートしてくれるので最後まで楽しく製作できた。

作ったものはお土産になるし、自然素材の伝統工芸品は使っていく中での経年変化も楽しめる。

〈駿府の工房 匠宿〉伝統工芸を未来へと繋ぐ場所。

丸子峠たい焼き屋の世界一大きなたい焼き

匠宿のある鞠子宿エリアには変わったスポットがもうひとつ。
それが“世界一大きなたい焼き”を売る「丸子峠鯛焼き屋」だ。

どれほどの大きさなのかというと、全長は60cm、その重量はなんと3.5kgにも。
こんな大きいと大食感しか完食出来ない!と思われるだろうが安心してほしい。
他にも全長26cmと16cmの2種類が用意されている。
普通のたい焼きが13~14cmほどだからこれでも十分大きい。

サイズ比較のため直径12cmのCDを横に並べた26cmたい焼き

▲26cmたい焼きもボリューム十分。
CDと比べるとその大きさがよくわかる。

どれも金型1つに1匹しか焼けない、いわゆる“天然物”のたい焼きで、天然物特有のパリッとした薄皮と、大ボリュームでも最後まで飽きが来ない甘さやや控えめの餡が特徴。
僕らは26cmを注文したが受け取ったたい焼きの迫力ある見た目に驚いた。

26cmたい焼きをなんとか食べ切った頃、僕らの後にやってきた家族連れが注文した60cm巨大たい焼きが焼き上がったようで大きな化粧箱入りのたい焼きを車のトランクに積み込んでいた。
さながらアメリカンな巨大ピザのような扱いが目を引いた。


〈丸子峠鯛焼き屋〉世界一大きなたい焼き。 – 山間にひっそり佇む、ちょっと変わったたい焼き店

街の文化が息づく創造舎のまちづくり

甘さ控えめとはいえ餡子たっぷりのたい焼きを食べ終えた体は明らかにほろ苦いコーヒーを求めていた。
そこでやってきたのは新静岡駅に近い人宿町(ひとやどちょう)の一角にある人宿町マート2階のカフェ「ROSSI」だ。

人宿町マートは1950年頃の古民家をリノベーションした建物に、魚屋やクラフトビールを出すバーなどが入るさながら“横丁”のような小洒落た空間が広がる。

1950年頃の古民家をリノベーションした昔懐かしい雰囲気漂う人宿町マートの外観
人宿町マート2階のカフェROSSIで注文したコーヒー

▲どこか懐かしい雰囲気の人宿町マート。
つい散策したくなる不思議な魅力のまちづくりがなされている。

この人宿町マートを含めた一体のまちづくりを進めるのが、匠宿の運営にも携わる「創造舎」だ。
県内で住宅や医院の設計デザインに携わる創造舎が地元の街を活気づけるプロジェクトとして取り組んでいるうちのひとつがこの人宿町のまちづくり。

暮らしに関わる企業だけあってどこか懐かしくも居心地の良い空間作りがされている。

福満。静岡餃子の歴史が生まれた店

この旅の最後は人宿町エリアにある老舗の餃子店「福満」で夕食をとった。

戦後、満州から引き揚げた先代が現地で食べられていた餃子の専門店として始めたのが昭和29年(1954年)のこと。

昭和レトロな年季が入った福満の外観

▲“THE町中華”のレトロな外観の福満。

かなり年季の入った昭和レトロな見た目に一瞬後退りしかけたが意を決して暖簾をくぐる。
通路を挟んで座敷とカウンター席が並ぶ店内もなかなかレトロなもので、町中華のお馴染み、手書きのメニュー表が壁に貼られている。

福満の餃子は、もちっとした皮で旨みたっぷりの餡をぎゅと包み、こんがりと焼き目がつけられている。
風味豊かな餡のしっかりとした味わいが楽しめる逸品だ。

綺麗な焼き目のついた福満の餃子
ナルトが入った定番のラーメン

▲静岡で長らく愛される福満の餃子はもちっと感と絶妙な餡が特徴。
一緒にラーメンを注文した。

食事中、地元客のような家族が予約していた餃子を袋いっぱいに詰めて買って行くシーンも。
この店がどれほどこの街で愛され続けているかを教えてくれているようだった。

静岡“らしい”心地よさを感じた2日間

帰りの新幹線に揺られながらふと考える。
2日間、時間をフルに使ってあちこち回ったはずなのにドッとした疲れがないのはどうしてだろうか。

思い出したのは、前日のサッカー観戦の前だか後だかに友人が話してくれたことだった。

清水エスパルスがJリーグの中で長い歴史を持つ実力派のクラブということだけでなく、ある意外な理由からも海外選手の移籍先として人気なのだとか。

曰く「静岡には富士山もあるし、東海道新幹線が通ってるから東京にも名古屋にも大阪にも行きやすい。海も山もあって暮らしやすい」ということらしい。

▲用宗海岸からは穏やかな駿河湾と雄大な大崩海岸の景色が望めた。

2日間でまわったのはどこも駿河湾の恵みやこの土地に息づくカルチャーを感じられる場所だった。

それはつまり静岡“らしい”場所であり暮らしやすく心地の良さを感じられる場所でもあった。

静岡駅から僅か50分。ひかり号はあっという間に東京に到着した。

text:Tomoki Sasaki

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