蔵づくりの美しい町並みが残る埼玉県川越。“小江戸”とも称されるこの街と、高層ビルが林立する新宿とを結ぶ西武新宿線。
この沿線で暮らす人々の暮らしに寄り添い、川越を訪れる人々の旅のひと時に安らぎと快適な移動時間を与えてくれているのが、1993年から走り続ける特急レッドアロー号だ。
▲スピード感のある造形の中にも、どこか親しみやすく優しさを感じさせてくれる丸目のヘッドライトが特徴のレッドアロー号。
西武池袋線の沿線で生まれ育った僕にとって特急レッドアロー号は最も馴染み深い列車のひとつだった。
新型特急ラビュー<Laview>が2019年に登場したことで池袋線からは引退し、活躍の場を西武新宿線だけに狭めてしまい、ここ最近はすっかり乗車する機会も減っていた。
新年の空気に満ちた西武新宿駅からレッドアロー号へと乗り込む
▲ブルーグレーを基調とした内装に、濃いブルーの座席が並ぶ。
日々の移動や川越への旅を快適なものへと変えてくれる。
2023年を迎えたばかりの新宿の街は一層賑やかな雰囲気に包まれていた。
新しい空気に満ちた西武新宿駅のプラットホームは、周囲の喧騒とは切り離されたように静かで、穏やかな雰囲気が漂っている。
埼玉に住む親戚へ挨拶をしに行くため、久しぶりにレッドアロー号へ乗り込んだ。
ブルーグレーを基調とした内装に、濃いブルーの座席が並ぶ清潔で機能的な雰囲気の車内だ。
プラットホームには多くの人々が電車を待っていたが、レッドアロー号に乗り込んだ人はそう多くはなかった。
きっと新井薬師へ初詣に行こうと、特急列車の停まらない駅で降りるつもりの人もたくさんいたのだろう。
西武新宿駅を発車した列車は一つ隣、JR線との乗り換え駅になっている高田馬場駅に停まってから都心を抜け郊外の街へ向けて走ってゆく。
心地良いひと時を与えてくれる車内
▲西武池袋線では新型特急ラビューへとバトンタッチしたレッドアロー号。
現在は西武新宿線に活躍の場を狭めるも、西武線を代表する特急のひとつだ。
レッドアロー号は決して新しい車両ではないものの、西武線を代表する特急列車のひとつとして、車内設備はしっかりと整えられている。
前の座席との感覚は十分に広く、足を伸ばしてゆったりと座ることができる。
前後2列で共有する横長の大きな窓に取り付けられたカーテンには綺麗な折り目がピシッと付けられていて、丁寧に手入れされていることを感じさせてくれた。
お手洗いは1号車と7号車の2箇所に設けられている。
車椅子席が設置されている1号車側のお手洗いは洋式で、車椅子対応の広い作りだ。
▲前後2列にまたがる横長の大きな窓には折り目がピシッと付けられたカーテンが掛けられている。
バトンを繋ぐように、思いをのせて街を繋いでゆく
郊外を全力疾走するレッドアローの車内にはモーターの大きな音が響き渡っていた。
1993年のデビューとは言っても、足回りはそれよりも古い列車のものが使われているのだそうだ。
確かに新型の列車と比べれば揺れも大きいように感じる。
それでも長年西武線を走り続ける思い出深い列車が放つ音や揺れには不思議と落ち着くものがあるのだ。
沿線で暮らしていた頃、旅に出る時には行きも帰りも決まってお世話になっていた。
就職面接の帰り道、へとへとになりながらレッドアロー号の座席に身を沈めたこともあった。
そういえば数年前の1月の寒い朝、指定された座席に腰を掛けるとすぐ側には受験生と思われる学生さんが座っていたのを目にしたことがある。
親しみやすい特急列車ではあるものの、きっと“特別”な思いを胸にこの列車に乗り込む人も少なくないのだろう。
▲夕暮れ時の西武新宿線を駆け抜けるレッドアロー号。
ラビューの登場と共に、余剰となった車両のいくつかは富山地方鉄道へ送られ新たな活躍をしているという。
実はこのレッドアローの先代にあたる「初代レッドアロー」も西武線を引退した後に富山地方鉄道へと送られている。
クルーズトレイ「ななつ星in九州」をはじめとした数々の列車デザインを手掛けた実績をもつデザイナー・水戸岡鋭治によってデザインを施され元気に走っているのだそうだ。
いつの日か、立山連峰を望む魅力溢れる富山の地をレッドアローに乗って旅をしてみるのも良さそうだ。
新天地の富山地方鉄道、そしてデビュー時から走る続ける西武新宿線で今後も末長く活躍を続けてほしいと思う。
レッドアローからバトンを引き継いだ新型特急ラビュー。街とともに、次の100年へ
<特急ラビュー>と街について – 次の100年に向けた出発点
2019年3月、西武池袋線に登場した新型特急ラビュー<Laview>。床面から天井まで届きそうなほどの大きな窓は、沿線の風景をダイナミックに切り取る。
側面にずらりと並んだ大型窓と、球体を削り出したような丸い先頭形状は、この列車のコンセプトでもある「いままでに見たことのない新しい車両」を具現化しているようだ。
レッドアローからバトンを引き継いだラビュー。西武鉄道の沿線の街の、次の100年を共に歩む列車になってくれるだろう。