連載:「旅して出会ったこんな店。」
旅先で出会ったあんな店やこんな店。定番からちょっと意外なメニューまで、旅を愛する食いしん坊におすすめしたい街の素敵な“食”を紹介するコーナー。
昭和レトロって新しい。
“湯の町”として知られる群馬県中之条町。
四万、沢渡、六合…名湯湧き出るこの街で、長らく愛され続ける昭和レトロな「街のパン屋さん」を見つけた。
駅からの道中に通りかかったその店は、ヨーロッパテイストが入り混じった昭和のレトロポップを思わせる外観。
一応平成生まれだからリアルな昭和の風景は知らない。
だからこそ、むしろ昭和レトロはちょっと新鮮な景色でもあり、惹かれるものがあるのだ。
昭和レトロな佇まいに惹かれて老舗のパン店へ
▲商店街の一角にあるオリンピックパン店。
歴史を感じさせる趣ある外観につい目がいく。
何度か店の前を通ると常に地元と思しき人々が出入りしていた。
風格漂う「オリンピック」の店名からもここのパン屋は間違いない!そんな気配が溢れている。
帰る前にぜひ立ち寄りたい。
そう思って伊参スタジオから乗り込んだタクシーの運転手さんに「オリンピックの前で降ろしてください」と伝えると、「この時間じゃもう売り切れて閉まっているかもしれないな~」と言われてしまった。
やっぱり地元に愛される老舗の人気店のようだ。
タクシーを降りて駆け込んだ店内には幸いにもレトロパンのジャム味が二つ。
ホッとした気持ちで店主の女性にお会計をしてもらった。
▲袋もレトロでかわいらしい。
やわらかな食感と優しい味わい。
フワフワの柔らかい食感が特徴のレトロパンは自然で優しい味わい。
極力余計な添加物を使わず昔ながらの製法を守り続けているのだそう。
だからこそ「余計なものが入っていないオリンピックのパンはおいしい。食べ損ねて時間が経つとカビるから安心できる」とお客さんからも評判なのだという。
オリンピックパン店。街との繋がりは芸術祭の作品にも
▲店名の“オリンピック”は1964年の東京五輪の開催よりも前、まだオリンピック大会がこれほど人々に注目される以前に地域の人に命名してもらったそう。
お店の内装も外観に負けず劣らずでレトロ感たっぷり。
今ではどうやったら手に入れられるのか分からないようなレトロかわいい壁紙や、鈍い輝きを放つ年季の入った陳列棚、壁に飾られた数々の写真やポスターなんかが目を引く。
中でもかなりの存在感を放っているのは派手な衣装に身を纏った店主の女性がレジを打っている様子が描かれた大きなイラスト。
▲美しくも誇らしげな姿が印象的。
「中之条ビエンナーレに参加した作家さんの作品に関連して作られたもので、期間中は中之条駅に飾られていたの」と教えてくれた。
この作品は2019年に開催された芸術祭 中之条ビエンナーレで作家の蓮輪康人により制作されたのだそう。
作品自体は前年に惜しまれつつ閉店した街のブティック「FASHION PLAZA トラヤ」を舞台に、中之条の人々がかつてこの店で購入した服を纏い、ファッションショー「トラヤコレクション ~わたし流を愉しむ~」を開催するというもの。
作品に連動して描かれたのがこの一枚で、美しくもどこか誇らしげな姿が印象的。
▲街に愛されながらも惜しまれつつ閉店したトラヤ。
ファションショー会場にもなった建物は実はオリンピックのすぐお隣。
とても気さくに中之条の街のこと、オリンピックパン店のことを話してくれた店主の女性。
そんな人情味溢れる雰囲気もきっと街に愛される理由なのかも。
text:Tomoki Sasaki
オリンピックパン店
◇ 群馬県吾妻郡中之条町大字中之条町965-2 JR吾妻線 中之条駅から徒歩12分 OPEN-9:00〜18:00(無くなり次第) 休-日,祝 HP-https://nakanojo-kanko.jp/shops/オリンピックパン/
再会を待ち遠しく思える街 中之条
〈群馬県 中之条町〉 再会の日を待ち侘びながら。/ISSUE011
旅の途中、何度も掛けられた「また会いましょう」の一言。その言葉に引かれるようにまた中之条の街を訪ねたいと思う。
今度はビエンナーレに合わせて行くのもいい。その時には四万温泉に宿を取って泊まりがけでもいいかもしれない。
“使い続けたい”、そう思わせてくれる伝統工芸の曲げわっぱ「入山メンパ」
中之条で作られる曲げわっぱ「入山メンパ」は、群馬県ふるさと伝統工芸にも指定されています。
地元の山から切り出された赤松や桜の木の皮から作られる入山メンパ。接着剤や金属釘を一切使わない伝統的な製法が守り抜かれています。
天然素材で作られた入山メンパの魅力は入れる食材などにもよって異なる経年変化です。いつまでも「使い続けたい」そんなふうに思わせてくれます。
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