トラベル

〈香川県 土庄町・小豆島町〉島の伝統と進化にふれる。/ISSUE 006

土庄港から坂手港へ向かうべく、港の目の前にある乗り場でバスを待っていた。
そう待たずにやって来たのは、車体全体が“オリーブ色”に塗られた何とも可愛らしい路線バスだった。

小豆島は瀬戸内海の中で、淡路島に次いで2番目に大きな島だ。
島の北西部の土庄町と、南東部の小豆島町で構成されている。
島を一周する人気のサイクリングコースが約82kmもあるのだから、いかにこの島が大きいかが良くわかる。

「清水和久」による作品、「オリーブのリーゼント」

▲「清水和久」による作品、「オリーブのリーゼント」。
名産であるオリーブの畑の中に作られたオブジェ。実は野菜の即売所なのだとか。

それ故に観光客は勿論、この島に住まう人々にとっても路線バスは大切な足として活躍している。
途中、病院や役所の停留所に停まり、40分ほどで坂手港に到着した。

伝統の町並みと進化。小豆島ハウスプロジェクト

瀬戸内海に浮かぶ島々に多く見られるように、小豆島の民家も多くが焼杉板の外壁に瓦屋根の伝統的なスタイルだ。
大変美しい街並みに感心しつつも、どこか懐かしくほっとするような気持ちになる。
外壁に焼杉板が多く使われるのは、潮風から守り、耐久性を高める為なのだとか。

小豆島のまちなみ

▲焼杉板が張られた外壁と、瓦屋根の組み合わせが大変美しい。
島の中ではこのような町並みを普通にみることができる。

僕らは、「新建築社+SUNAKI」による作品「小豆島ハウスプロジェクト」を訪れる為、海沿いの道から上り坂になっている細い路地に入って行った。
坂の途中で若い男性から「こんにちは~、良かったらフィッシュ&チップス食べていってください!」と声を掛けられた。

すぐそばの軽トラック屋台で調理し、横に設置されたスペースで食べられるようだ。
美味しそうなメニューだったので「後でお邪魔します!」と返事をし、先にある作品を目指した。

この作品は瀬戸内国際芸術祭2022の夏会期から公開された作品で、高度経済成長期の1970年代に建てられた空き家を活用しているのだとか。
新建築が手がけるシェアハウスや滞在型施設を作る「ハウスプロジェクト」の一つだ。
“古民家とは言えない、まだ価値付けがされていない建物に価値を作る”ことをコンセプトにしている。

小豆島ハウス2階からの景色

▲小豆島ハウスの2階から外に出ると、瓦屋根越しに美しい瀬戸内海の景色を望むことが出来た。

制作を行いながら滞在が出来るよう改装をしつつ、寝泊まりする和室はほとんどそのまま残されている。
この地域の伝統を受け継ぎながら、新しい姿へと変化していく建物を見学する貴重な機会となった。

ata rangi。小豆島でニュージーランドの風を感じる

帰りに先程の屋台で足を止め、鯛を使ったフィッシュ&チップスを注文することにした。
この時期ならではの、タコを使ったフリットミストもおすすめとのことだったので1つずつ注文した。
メニューについて詳しく聞いてみると、どちらも近くの海で獲れたものを使っているのだとか。

この屋台はアート作品と連携して出店しており、期間限定なのだそうだ。
実は調理や接客をするお二人は元々東京に住んでいて、この島には移住してきたのだという。

ata rangiで調理をするオーナー

▲小豆島に移住し、地元の漁業振興などに取り組んでいるのだという。
素敵な笑顔でこの島の漁業や食について教えて下さった。

店舗名の「ata rangi」はゆかりのあるニュージーランドの言葉が由来だと言う。
ニュージーランドのビールと小豆島の柑橘や魚介はとてもマッチするのだと聞き、是非ビールも注文したかったが、生憎アルコールには弱いため断念した。

ata rangiのメニュー

▲青色の漁具をトンネルのように組んだスペースで、絶品のフィッシュ&チップスとフリットミストを頂いた。
屋外だが、漁具が適度な日除けとなり風が抜けていくので意外と心地よい。

揚げたてのフィッシュ&チップスとフリットミストに島の塩を掛けて食べた。
サクサクとした食感、適度な塩気、食材そのものが持つうまみがマッチしてとてもおいしい。
食べ終えると再び海沿いの道に戻り、醤油造りや佃煮製造が盛んな「醤の郷(ひしおのさと)」へ向けて自転車を走らせた。

香ばしい香り漂う重厚な街。小豆島・醤の郷

醤油や佃煮の生産は小豆島の伝統的な産業の一つだ。
海運が盛んな瀬戸内海に位置し、原料である大豆や小麦が調達しやすい事に加え、発酵に欠かせない酵母菌に適した気候である事、そして古くより塩造りが盛んだった事などが関係している。

醤の郷のまちなみ

▲醤油造りや佃煮製造は、小豆島の伝統的な産業の一つ。
現代でも、木桶を使った古くからの製法で作られているところもあるのだそうだ。

醤油の香ばしい香りに包まれた重厚感ある町並みを進んで行くと、「ひしおしぇいく」と書かれた看板が目に入った。
気になってどんなものか聞いてみると、醤油を使ったジュレにバニラシェイクを加え、塩昆布をトッピングしたものなのだとか。

果たしてどんな味だろうと気になった上に、暑い中自転車を漕いできたので冷たいものを欲していた。
いざ飲んでみると、甘じょっぱくてこれがまた美味しい。
近くへ訪れた方は是非飲んでみてほしい。

宝食品が運営するアンテナショップの店内
ひしおしぇいく

▲京宝亭は小豆島で佃煮製造を行う宝食品の、ミュージアム併設のアンテナショップ。
「ひしおしぇいく」はどんな味だろうと一瞬戸惑ったがリピートしたくなるおいしさ。

アートは人を招き、その街の魅力を教えてくれる

続いて、「ドットアーキテクツ」による“キッチンとスタジオが一体になった”作品「UmakiCamp」を訪れたが誰もおらず、入っていいのか迷っていると近くに住む方が声を掛けてくれた。
なんとそのまま作品の解説までしてくれたのだ。

この建物は地域の人が実際に使うこともあるそうだ。
「アート作品が出来て多くの人が訪れ、地域の刺激になっている」と話されていたのがとても印象的だった。

その後訪れた「ジョルジュ・ギャラリー」の受付の方も、「地域に素敵な作品が多く出来た、寒霞渓など素晴らしい地域が多くある小豆島に何度も訪れてほしい」とお話しされていた。
この島の自然や伝統、産業を活かしたアートが地域に受け入れられている事を実感した。

ジョルジュ・ルースとボランティア50名が作り上げた作品

▲「ジョルジュ・ギャラリー」は、アーティスト「ジョルジュ・ルース」と50名ものボランティアによって古民家の和室に制作された。
ある一点からみると大きな金色の円形が浮かび上がる。

素晴らしい作品にふれ、素敵な地域の方々から話を聞く事が出来、満足した僕らは土庄港へ戻るバスに乗るべく草壁港へ向かった。

バスに乗る前に周辺の作品を見て回り、その後人気のジェラート店「MINORI GELATO」へ寄った。
色とりどりのジェラートに目を奪われているとバスの時間ギリギリになってしまった。
急いでバス停へ向かったが無情にも目の前をバスが通り過ぎて行った。
既に溶け始めたジェラートを食べつつ、土庄港まで自転車で向かうことを決めた。

シャン・ヤン作「辿り着く向こう岸」

▲草壁港に浮かぶ「シャン・ヤン」による作品、「辿り着く向こう岸」。
廃棄された建具や、家具を使って構成された作品は見応えがあり、帰りのバスの時間も忘れて見入ってしまった。

バスの中からでは気が付かなかったが、名産のオリーブの畑が本当に多く、道沿いに普通にオリーブの木が生えていることに驚いた。

バスに乗り遅れた時には帰りの高速船に間に合うかも怪しいと思ったが、エンジェルロードや土庄港周辺のアート作品に寄ることも出来た。

海の道があらわれたエンジェルロード

▲エンジェルロードは1日2回、干潮時のみ姿を現す砂の道。映画などのロケ地としても有名だ。

製塩業から醤油造り・佃煮産業への転換、移住者による新たな取り組みなど、地域は常に変化し続けるのだということを感じた1日だった。
宇野港行きの高速船「みらい」に乗り込み僕らは小豆島を後にした。

コメントを残す

*