仕事に追われ、どうにもこうにも行かなくなり、どこか遠くへ逃げ出してしまいたい。
そんな時に私は大抵同じことを考えてる。
「宇宙の広さから考えれば、この程度の問題はホコリにも満たないほど小さいものに違いない…!」である。
そうやって何とか日々をやり過ごしているわけだが…。
宇宙なんてそうそう身近に感じられるものでもないのが現実。
宇宙旅行などはまだまだずっと先の未来の話で、SF映画で気を紛らわすのが関の山だ。
科学博物館に行ったり、場合によっては茨城のつくばまで行ければ「JAXA」があるから宇宙へのワクワクを感じることはできる。
ただ他にもそういうのって無いのだろうか?
そんなことを考えていた時に「野辺山宇宙電波観測所」の話を聞いた。
ササキさんが沢木耕太郎の「旅のつばくろ」の中で「野辺山宇宙電波観測所」の話が出て来たことを教えてくれた。
正式名称「国立天文台 野辺山宇宙電波観測所」。
野辺山は日本の電波天文学の「聖地」であり、戦後間もない頃に誕生した日本の電波天文学は、太陽電波の観測、さらに世界最大級の45m電波望遠鏡を中心とした 宇宙電波の観測によって、世界レベルへと発展したらしい。
標高が高く水蒸気の少ない野辺山では、まわりを山に囲まれているため都会からの人工電波が遮られ、宇宙からの微弱な電波を捉えるのに適しているのだそうだ。
一面に広がる畑や山々。確かに遮る電波はどこにも無さそう。
世界最大級のアンテナが日本にあるなんて知らなかった。
野辺山駅に到着したが観測所まで徒歩40分もかかるとのことなので駅で自転車を借りて向かう。
野辺山駅からはひたすらに真っ直ぐ、山や畑が広がる景色の中で私たちは自転車を漕ぎ続けた。
夏の日差しが暑く、一体いつそれらしき景色に出会えるのだろうかと思っていると“それ”が顔を、いや後頭部を出していた。
突如現れる白い物体。この段階では大きさもあまりわからない。
ゴールが近いことを悟り、ペダルを漕ぐ力が増す。そして入口まで辿り着くと、いくつものアンテナが出迎えてくれた。
直立不動の巨大アンテナ達。真上を向いてる時は休憩。
斜めを向いている時は観測をしているらしい。
施設内では携帯電話はオフか機内モードにして観測の邪魔にならないようにしなければならない。
客層は子連れの家族、老夫婦、マニアックそうな若者やおじさん等様々だ。
誰もが大きなアンテナたちを見上げていて、感嘆の声が聞こえてくる。屋外にあるためアンテナには汚れが目立つが、機能は最先端の機械たち。巨大な白い機械が並ぶ姿はディズニーランドにあるトゥモローランドさながらだ。
1993年、野辺山の電波望遠鏡を使った観測により、それまで存在自体が曖昧だったブラックホールが存在する証拠を見つけた。
奥に進み右に曲がると目当ての世界最大級のアンテナが見えて来た。
遠くからでもその巨大さは際立っており、近づくと他のアンテナたちとは異なり、桁違いに大きい。
近くからではカメラの画角に収まらないほど大きく、訪れた人が皆その周辺に集まって足を止めていた。
SF映画ぐらいでしか感じられないと思っていたこの近未来感。スターウォーズのセットを見てるような気分になってくる。
このアンテナが日本の、いや世界の電波天文学を牽引しているのかと思うと、そしてそれがいま目の前にあるのかと思うと、途方もなく遠くに感じていた宇宙が近づいてくる気がする。
叶うならその研究者になって色々な宇宙の謎に向き合ってみたい。きっともっと宇宙が近づいてくるんだろう。
残念ながら文系の出のため日々の宇宙関連のニュースに一喜一憂するだけなのだが、ここに来ると少しだけその一端に関われたようなそんな気になった。
駅までの帰り道はまたひたすらに真っ直ぐ。再び山々や畑を通り過ぎると、雲の切間から陽の光が降りてくるような景色が広がっていた。
当たり前だが太陽の光も宇宙から来ているもの。
宇宙から降り注ぐ電波とそれを捉えるアンテナ。そうやって降りてくる情報を集めることで人間は宇宙について理解しようとしてきた。
まだまだ謎だらけで遠い世界の話だが、野辺山では少しだけ宇宙を近くに感じることができる。
そして宇宙が近づいてきた時、自分の日々の空想もあながち間違いではないと思えた。
宇宙は確かにそこにあって、自分はその広大な宇宙の小さな一部なのだ。そう考えるとやはり仕事の悩みなど“ホコリにも満たないほど小さいもの”なのだろう。いや、もしかすると目に見えない宇宙からの電波がそう思わせてくれたのかもしれない。
text: Masato Okada